Chips - no.36「獣医」

 本名、伊藤継一。この時点で46歳。
 腕は確かで、近所のペットを飼っている人々からは一定の信頼を得ている。動物病院の2階は自宅だが、様々な資料で溢れている。彼は唯一、物が乗っていない、狭いソファーの上で眠っている。
 
 彼が個人的に飼った動物は、これまでに猫1匹だけだ。小学生の頃、両親の許可をもらって捨て猫を育てはじめたが、その猫は彼が中学生の頃に失踪し、まだ見つかっていない。


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Chips - no.35「クラスでの彼女」

 勉強ができ、運動もそこそこできる。かといって何かのクラブに所属しているわけではない。
 彼女は多くのことを努力をしていたが、その努力がどこに向けられているか、黒崎リョウはまだ知らなかった。

 彼女はあまり目立たない生徒で、そうなることを望んでいる風でもあった。
 けれど、1つだけ矛盾する癖を持っていた。
 ノートでもテストの答案用紙でも、自分の名前をずいぶんと大きく書くのだ。決して間違えるな、という風に。
 それに気づいて、なんだか子供っぽくて微笑ましいなと、黒崎リョウは思った。




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Chips - no.34「ゲーム機」

 多くの子供たちにとっては、所有していることが当たり前な娯楽機器。ある少年にとっては、友だちを作るための重要アイテム。父から贈られたとても大切なプレゼントでもあった。
 それを手にしたとき、少年は初めて、最新の携帯ゲーム機は動かすのに乾電池がいらないのだと知った。けれど父はどこかで古い情報を聞いていたのか、ゲーム機に単3乾電池の12本パックを添えて彼に渡していた。


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Chips - no.33「付録屋」

 トレインマンに必要な道具を渡す仕事。
 通信販売の段ボール箱の側面、あるいは裏面を切って開け、必要な物品を中に入れて、再び閉じる。
 その段ボール箱を目的の相手に渡せば、「付録屋」の仕事は終了だ。

 採用条件のひとつは、他の付録屋の利用歴があること。
 基本的には、弱みのある人間しか、組織は使わない。


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Chips - no.32「切符」

 トレインマンが必ず、現場に残していくもの。
 そこには共通の指紋が残されている。
 トレインマン、あるいは組織にとって重要なのは切符ではなく、「共通の指紋が現場に残されていること」だ。

 指紋は犯罪捜査や個人認証において重要視され、だからこそ組織はトレインマンを作り上げるためにこれを利用している。
 組織は、目立たせることと隠すことの両方が得意だ。


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Chips - no.30「切符切り」

 トレインマンというキャラクターを成立させるため、切符に指紋を付ける仕事。
 ある男が担当している。
 彼は、組織の人間から「君にしかできない仕事がある」と声をかけられ、素直に従った。

 切符切りは今、あるマンションに軟禁されている状態にある。
 彼が日常生活で使う品々は、たびたび新しいものに取り換えられる。
 なぜなら、組織の予定通りに事が運べば、いずれ切符切りこそがトレインマンの正体として――おそらくは死体で――新聞の一面を飾ることになるからだ。
 切符切りがトレインマンの正体になる時、彼が使った日常雑貨は、様々な証拠品として紙面に登場することになる。


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