2013-05-03から1日間の記事一覧

Chips - no.15「黒崎正吾」

黒崎リョウの父親。この時点で42歳。 32歳で職を失い、それから様々な人に、様々な形で騙され続けてきた。損をする善人の典型。 金がないこともあるが、その造形から歴史を感じられるものを愛しているため、安く買った中古のベレットを自身でメンテナン…

Chips - no.9「スタンガン」

相手に電気ショックを与える非殺傷性個人携行兵器。 大久保は付録屋の仕事で手に入れたものを、護身用に持っていた。 back← .

Chips - no.8「大久保の下心」

下心は大久保の原動力だ。 彼は下心により、付録屋の仕事を放り投げ、トレインマンから(形の上では)岡田を救った。その後の展開を想像し、逃走ルートも(彼の中では)綿密に計算していた。 ちなみに大久保が付録屋になったのは、「コンビニの時給を20倍に…

Chips - no.7「ベレット」

いすゞ自動車が昭和38年から製造した小型乗用車。卵の殻をモチーフにデザインされた温かみのあるフォルムが郷愁を誘う。 back← .

Scene21 2/2

ずいぶん悩んで、オレが選んだのはペンダントだった。 白と黒、2つのペンダント。白い方はちょっと変わったハート型で、黒い方は牙のような形をしている。その2つを組み合わせると、一回り大きな、綺麗なハートになるのだ。 オレは白いハートを彼女に贈っ…

Scene21 1/2

結果的に、ゲーム機を売ってよかったことが、1つだけある。 手元にそれなりの金が残っていたことだ。 父と母が正式に離婚することは、すぐにわかった。父は東京で新しい仕事を始めるのだという。オレもそれについて行くことに、自然と決まっていた。 妙に清…

Scene20

その、翌日のことだ。 もちろん約束をしていたクラスメイトには責められた。予定をすっぽかしたのだから、仕方のないことだ。 でも、そんなことよりもオレは、窓際の吉川アユミが気になっていた。 うつむいていて、彼女の表情は見えない。 でもなぜだか、吉…

Scene19 3/3

吉川の、奇妙に勇ましい背中に向かって、叫ぶ。 「おい! どこに行くんだよ!」 彼女は小さな声で答えた。 「決まってるじゃない」 なんにも、決まってねぇよ。 この話はもう終わったんだ。モップが助かって、めでたしめでたしだ。その他に決まってることな…

Scene19 2/3

父に申し訳なかった。 あのゲーム機を、売ってしまったことだ。 あとで謝ろう。嫌われないだろうか? でも、素直に謝るほかに、何も思い浮かばない。 それからようやく、遊ぶ約束をしていた同級生のことを思い出した。約束の時間はもう過ぎている。それに、…

Scene19 1/3

動物病院に駆け込む。 自動ドアの向こうに立っていた、白い帽子のおばさんに肩をぶつけた。 「すみません」 そのおばさんに頭を下げて、カウンターに向かう。 なぜだかそこにいたのは、受付の女性ではなかった。あの獣医と、ケージに入ったモップだった。 モ…

Scene18 3/3

ゲーム機とソフトを売るのには、少し手間取った。 箱に入っていると買い取り価格が上がるということだったから、一度、アパートに戻った。母はいなくて、父はいびきをかいて寝ていた。 いざ、商品をカウンターに並べると、「ご両親のサインがなければ買い取…

Scene18 2/3

診療室を出た時に、吉川が言った。 「嘘だよね?」 こいつまで騙す必要はない。 「もちろん」 「大丈夫なの? そんな嘘、ついて」 「さあ」 「さあ、って」 「とにかく入院させて貰えなきゃ、どうしようもないだろ。嘘よりも命の方が重いさ」 早く、モップの…

Scene18 1/3

獣医は手早く、モップに点滴を打ってくれた。 なんだかそれで、モップの毛に艶が戻ったような気がした。 飼い主の聞き込みに来た時は、この獣医があまり好きではなかった。 表情は豊かなのに、言葉は常に淡々としている。子供の話を親身になって聞こうという…

Scene17 3/3

柔らかく抱きかかえられる自信がなかった。 担架がいる、とまず思った。 犬小屋から屋根をはぎ取る。簡単に元の段ボールに戻った。出入口の穴さえ気をつければ大丈夫だ。中の古いタオルを敷き直し、吉川に向ける。 「ほら、モップを」 「うん」 彼女は怯える…

Scene17 2/3

段ボール製の犬小屋の前に、女の子がしゃがみ込んでいた。 一目でわかった。吉川だ。 彼女はじっと、モップを抱きしめている。 「よう。どうしたんだ? 泣き虫」 なんとなく名前を呼ぶのが照れくさくて、オレはそう声をかける。 吉川がこちらを向いた。悲壮…

Scene17 1/3

馬鹿みたいによく晴れた日曜日、オレは初めて、同級生の家を訪れる予定だった。 鞄の中に、確かにゲーム機が入っているのを確認してアパートを出た。これだけは忘れちゃいけない。友達を作るための、重要アイテムなんだから。 約束の時間には早すぎる。モッ…

Scene16 5/5

ゲーム機を手に入れたオレを、クラスメイトは簡単に受け入れてくれた。 なにもかもが、なにもかも、上手く回っているように思えた。 目先の問題はモップの飼い主捜しだけだ。それに関しても、有効そうな方法を思いついていた。 きっとポメラニアンを買った人…

Scene16 4/5

ずいぶん、悩んだ。 神さまがどこかでオレを試していて、ここであんまり欲張り過ぎると、父が消えてしまうのではないかと思った。もっと具体的には、この父がそれほど金を持っているとは、思えなかった。 でも―― 思えばモップに出会ってから、良いことばかり…

Scene16 3/5

「悪い。父ちゃん、稼いでお前に美味いもん食わしてやろうと思ってたんだけどよ。なかなか上手くいかなくってさ」 どうだっていい。 「母ちゃんは帰り、遅いんだろ? 晩飯でも食おう。この先にさ、美味い寿司屋があったんだけど。まだやってるかな。いつも客…

Scene16 2/5

モップに出会って7日目に、良いことが2つあった。 1つ目は、犬小屋だ。 前日に作った自信作に、犬のイラストがついた便箋が貼りつけられていた。 ――すごくよくできてるね! と、その便箋には、可愛い字で書かれていた。 オレはずいぶん悩んで、短い返事を…

Scene16 1/5

それからはモップのことばかり考えていた。 まっ白なポメラニアンの飼い主について聞き込みを続けながら、段ボール箱で犬小屋を作った。作る度に不満が目につき、毎日のように作り直した。 父は以前、原型師をしていたらしい。 原型師とは玩具の元となる型を…

Scene15

モップが足元にじゃれてくる。 手の甲で涙を拭いている吉川の隣で、オレは言った。 「やっぱりさ、こいつの飼い主を探した方がいいと思うんだ」 家族というのは幸福の象徴だ。 モップだって、戻れるなら本当の家族の元に戻った方が良いに決まっている。例え…

Scene14 2/2

誕生日の思い出らしきものは、ひとつだけだ。 ある時、確か小学3年生の頃、電話で母が話しているのを聞いたのだ。来週の金曜日は、私の誕生日なのよ、と。 オレはバースディケーキを母に用意しようと思った。 もちろん金なんかない。でも、とにかくケーキ屋…

Scene14 1/2

泣いている女性は苦手だ。 繰り返しになるけれど、オレには誕生日を祝われた記憶がない。 あるいはとても幼い頃――例えば、まだ家に父親がいた頃なら、ありきたりで幸福な誕生パーティーのようなものがあったのかもしれない。でも、いくら考えても思い出せな…

Scene13 2/2

テストの一件から、吉川のことはなんとなく気になっていた。 クラスにおいて、彼女は目立たない生徒だ。 いわゆる優等生で、どの教科でも先生にあてられると、すらすらと正解を答えたが、その声は小さく、聞き取りづらいものだった。不安げなのではない。正…

Scene13 1/2

満点の答案用紙を見て、ため息をつく小学生を見たことはあるだろうか? オレは一度だけ、それを見た。 教壇で、先生が一枚ずつ答案を返却して、同級生たちがめいめいに騒いでいる時だった。 その中でオレは、まっすぐに自分の席に戻った。点数はそれなりに誇…

Scene12 2/2

ポメラニアンは首輪をしていなかった。だが、首輪の跡がくっきりと残っていた。 オレはそいつの背中に右手を乗せる。意外にごわごわとした毛。何かからこいつを守るものの手触り。 「捨てられたのか?」 少し、同情した。 「オレもさ、捨てられそうだよ」 そ…

Scene12 1/2

モップについて語ろう。 彼は白いポメラニアンだ。でもその毛並みは茶色く汚れていた。世の中の汚いところをみんな拭き取っていくように、腹の長い毛を地面にこすりつけて歩く犬だった。 モップに出会ったのは、まだオレが10歳の頃だ。 10歳。それはオレの人…

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このブログは、インターネット企画「3D小説」のために用意されたものです。 当「3D小説」はグループSNEの公式twitterアカウント上で、企画責任者である「少年ロケット」が開催いたしました。 この企画は5月5日に、無事、「 Bad end 」の修正を終え…