2013-05-04から1日間の記事一覧
黒い拳銃。 最初、コンビニで少女が呟いたとおり、ベレッタというのがその銃の名前だ。 少女を見つけると同時に、オレは迷わずベレッタを引き抜いていた。 気配に勘づいたのか、少女が顔をこちらに向ける。 その表情が、固まる。 まるで紐の絡まった操り人形…
最適を選んできたつもりだったのに、気がつけばずっと前から、望みは叶わない方へと進んでいた。 今まで間違い続けていたし、これから、また大きく間違える。 間違いを正せばきっと幸福な未来があると信じていた。でも、いつの間に、こんなところまで来てし…
ベレットを走らせる。広さの割に交通量の少ない道だ。 昨日から何度か、子供の頃を思い出していた。 最近は考えないようにしていたのに、記憶とは些細なきっかけで湧き出すものらしい。 過去を見るのは嫌いだった。意識せずとも、彼女の存在が脳裏をちらつく…
マンションの駐車場へ戻ると、ベレットのワイパーに何か挟まっていた。 メモ? 広げてみると、意外に大きい。 幼い子が使うノートの1ページを破り取ったもののようだ。 汚い字で羅列された――なんだ、これは。ゲームの技名か? きっと子供の悪戯だ。 普段な…
――生きてるってことは、それだけで奇跡的に幸福なのさ。 そう言っていた父は、オレが人殺しと知れば、どう思うだろう? だが、あの少女が長く生きれば生きるほど、父に危険が及ぶのだ。 組織が彼女に気づいた以上、救う道などないじゃないか。 オレの手で殺…
メールの文面は続く。 貴方の住居スペースから、毛髪と指紋を検出。 共に2人分で、女性のものです。 一方は当社との契約者のデータと一致。もう一方は当社が保有するデータには該当いたしませんでした。 スマートフォンを握る手に、力が入る。 組織はいつも…
エレベーターを降りながら、女性警官の話を反芻する。 もちろん組織を憎く思っていないはずがなかった。しかし、だからといって組織に刃向えるはずもない。 ――父を守る。 そのための最適解を考えれば、自ずと答えは出る。 マンションを出たところで、ポケッ…
「おかしいと思っていたのよ」 彼女の話は続く。 「普通に考えて、『まったく殺さないトレインマン』なんて成立するはずがない。それ自体が組織への反抗と解釈されてもおかしくないもの。なのに、貴方は特別に許されていた。組織の弱みでも握っているのかと…
あの、女性警官のマンションだ。 清潔で簡潔な部屋の真ん中で、彼女は木製の椅子に腰かけていた。 「黒崎正吾」 と彼女は言った。 「きっと、貴方の血縁者。お父さんかしら?」 なぜ、この女性警官がそんなことを言うのか。決まっている。 やはりこの女は、…
トレインマンの特徴は2つだ。 犯行現場に切符を残すこと。 そして、それらの切符には必ず同じ指紋が付着していること。 指紋こそがトレインマンの本体だともいえる。 だから複数のトレインマンが、模倣犯の可能性も疑われず、まるで一人のキャラクターのよ…
ベレットのアクセルを踏み込む度に、エンジンが苦しげに咳き込む。今は頑張ってもらうしかない。 京都。 そこに、あの少女がいるかもしれない。確証はないが、可能性は高いように思う。 高速に入り、吹田のジャンクションを過ぎたところで女性警官から電話が…
女性警官は、7回目のコールで出た。 「何? 珍しいわね。貴方から電話なんて」 「急にすまない。ただ、なんとなく仕事の結果が気になって」 「ああ、付録屋の件? 間にあったわよ。貴方の言うとおり。今朝の新聞を見てないの?」 「いや、買いに行く暇がな…
少女の容姿は正確に情報化され、オレの脳内に収められていた。 白い肌、大きな目。そして彼女は、オレと最後に会ったとき荷物を持っていなかった。 逃げるにしても、いったん家に戻りたかったはずだ。あれでは、そんなに遠くまでは行けない。 今は、どこにい…
軽い朝食を終え、改めて、あの少女を思い出す。 オレは彼女を殺すのか、と考える。 ――人を殺さないトレインマンが? そう、誰かに尋ねられた気がした。 幼い少年の声だ。 できれば殺したくなんてないさ、とオレは返す。 ――なら殺さなければいい。 もちろん、…
近くのコンビニに車を止める。 店内に入ると、まだ学生と思しき少年が元気な声で迎えてくれた。 あまり悩まず、たまごサンドとブラックコーヒー、それに新聞を買う。500円玉で釣りがくる。 車に戻ってから、機械的にサンドウィッチを口に入れる。同時に、一…
あの少女――岡田と言ったか。 昨晩から今朝にかけて、彼女がこのマンションに戻った様子はなかった。となれば、オレを警戒して他の場所に姿を隠したのだろうか。現実的な判断だと思う。 でも、どこに? 上手く思い当たらなかった。彼女に関する情報が少なすぎ…
無言で目を覚ます。じんわりと汗をかいていた。 ベレットの運転席だ。 フロントガラス越しにマンションが見える。 曖昧な記憶を繋げてゆく。 そうだ、オレは―― ダッシュボードに置かれた銃を確認する。 ――あの少女に会わなければならない。 back← 全編 →next…
夢を見ていた。 あの公園。 モップに餌をやっている。ふいにモップが、ハムも、オレもそっちのけで遠くへ走ってゆく。顔を上げると、あいつがいる。 吉川は困ったように笑っている。 約束が叶って、オレたちは毎日、並んでこの公園を歩く。 あたたかい夢だ。…
このブログは、インターネット企画「3D小説」のために用意されたものです。 当「3D小説」はグループSNEの公式twitterアカウント上で、企画責任者である「少年ロケット」が開催いたしました。 この企画は5月5日に、無事、「 Bad end 」の修正を終え…