Scene5 23:30〜 2/3

「仕事のために銃が必要なのよ。あ、仕事って、もちろんトレインマンの方ね」
 一緒にベレットまで歩き、助手席に着いた直後、女性警官は告げた。トレインマンについて話すなら極力、人に聞かれない場所を選ぶべきだ。
「付録屋から買う予定だったんだけど、彼はいないみたいだったから。貴方、どこにいるか知ってる?」
「知らない。というか、オレもあいつらを捜してる」
「ら?」
「女の子が一緒にいるんだ。標的の。そいつを連れて、付録屋は逃げた」
「へえ」警官が口元を緩める。「駆け落ちかな。ドラマチック」
「いや、残念だがそれは考えにくい。その付録屋から連絡があったんだ。彼女は組織にとって危険だと」
 女性警官が、困惑したように表情を曇らせる。「冗談よ? 別に本気で言ってない」
「え、冗談?」と反復した。
 そうか。そりゃそうだ。普通に考えればわかる。
 どうやらオレは、まだいくらか動揺しているようだった。はあ、と息を吐き、心を落ち着かせる。ついでに、さして興味はなかったが儀礼として尋ねた。
「君の方は? 今度は誰を救うんだ」
「ああ、どこかの政治家。汚職がバレされちゃったんだってさ。だから、しばらくは立て続けに差し替えがある予定」
「なるほど。骨が折れるな」
「別に。始末すべき男なら、組織が適当に見繕ってくれるし」
 この女性警官は――オレもだが――トレインマンとして異質だ。オレが人を殺さないと決めているように、彼女は女性を傷つけない。
 ただし彼女の場合、逆に言えば、男なら簡単に殺す。しかも大体において他のトレインマンよりも手早く、派手に。組織もそれを知った上で、便利に使っているのだろう。
「で? 貴方、なんで2人を追ってるの?」
 女性警官は、意地悪い笑みで訊いてきた。
「少なくとも嫉妬じゃないかな」
「冗談はいいから。だって、貴方は人を殺さないはずよね?」
 面倒だった。
 けれど、彼女には事情を話した方がいいか? 少なくとも彼女は女性を殺さない。そしてオレには人手が足りない。
 少し考えた結果、例の少女が吉川に似ているという点は伏せて、ベレッタの受け渡しについてだけ、大まかに説明した。
「ただ銃の名前を呟いただけで、殺すんだ?」
 女性警官の目は冷たい。
「オレは殺さない。でも、組織が知ったら、必ず殺すだろ」
「どうして?」
「組織が探しているのは、あくまで一面記事のための被害者だ。元々、誰でもいい殺人なんだよ。なら少しでも邪魔な奴から狙った方が、効率的だ」
「ふうん」と、女性警官がつまらなさそうに言った。
 同時に、ブウンとオレのズボンが震える。着信を知らせるバイブレーションだ。急いで発信者を確認する。
「付録屋だ」
 え? と横で警官が声を出す。
「もしもし。おいお前、今どこにいるんだ」


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