Scene6 23:45〜 2/2

 エンジンを切り、車から降りる。
 あの少女と付録屋を挟んで、向こうに銃を構えた女性警官が立っている。もう、2人に逃げ場はない。
「あーあ」
 妙に、気の抜けた声が聞こえた。
「ゲームオーバーか。上手くいきそうだったのにな」
 付録屋だ。彼は、ズボンのポケットに手を突っ込んで、
「岡田。お前、もうダメだわ」
 よくみかけるタイプのスタンガンを、少女に押し当てた。

 オカダ?

 オレの耳には、確かにそう聞こえた。
 あの少女の名だ。他には有り得ない。
 なんだ、と思う。やはりそうか。思い過ごしだったのだ。そうそう都合よく、吉川に出会うはずがない。現実はそれほど劇的ではない。
 岡田と呼ばれた少女をその身で支えながら、女性警官が訊いた。
「一体、何がしたかったの?」
 付録屋はへらへらと笑っている。
「白馬の王子様になってみたかったんですよ。お姫さまにいい感じのピンチを演出してね」
 悪気もなさそうに肩をすくめて、言った。
「心配しなくても、一通りいい思いをしたら、そいつは貴方たちに差し出すつもりでしたよ」
「へえ、そう」
 パシュン、と軽い銃声。
「え」
 付録屋が、女性警官を、彼女の右手を見る。そして、自分の胸も。
 彼の黒いTシャツには穴が開き、そこから静かに血が溢れ出ている。
「トレインマンを――まぁ訊くまでもなく、ご存知よね」
「なんで」
「別に。なんかむかついたから」
 女性警官が平坦な声で告げた。
 付録屋は声にならない声で呻き、倒れる。
 彼女は付録屋に歩み寄り、その手からスタンガンを奪った。
 代わりに切符を握らせる。
「さよなら。乗車券を忘れずに」
 犯行現場に切符を残す。だから、トレインマン。これも組織が用意したキャラクター性だ。
 オレは、気絶した少女――岡田をベレットの後部座席に積み込む。
 その時、念のために彼女の首元を確認したが、チェーンはなかった。やはり、すべて錯覚だったのだろう。
「一発使っちゃったけど、これ、返すわ。ありがとう」
「ああ、いや、こちらこそ」
 間の抜けた返事をしてしまう。
 殺人犯にどう対応すればよいのか、未だによくわからない。オレだってトレインマンだというのに。
「確かに――」
 彼女は言った。
「どうせ殺すなら、ちょっとでも理由がある奴ね」

 動揺する頭で、無理に事態を飲み込む。
 付録屋が死んだとしても、少女が吉川ではなかったとしても。
 なんにせよトレインマンは少女を見つけだし、今夜の仕事を終えたのだ。
 助手席に女性警官を乗せ、オレはその場を後にする。


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