Scene1 22:30〜 2/3
組織にとって、父が重要な理由は2つしかない。
指先にきちんと指紋がついていること。
それから、今まで警察に指紋データを取られるような事態に一度も出くわしてこなかったこと。
この、たった2つ。
オレにとっての父の重要性は、もう少しだけ違う。
オレが確かに父の血をひいていること。そして、彼がかつて、ゲーム機を買ってくれたこと。
そのゲーム機はすぐに手放すことになった。謝るオレに、父は言った。少しだけ悲しげな声で。
「なんだって、いつかはなくなるもんさ。腹が減るから次の飯は美味いんだ」
彼は善人だ。
少なくとも、警察に指紋データを取られたことがない程度には。
そして、善良な血縁者を恨む気には、オレはなれない。
もちろん父は、オレの人生を色々な形で歪めてきた。
例えば10年前、あの街を離れなければならなかったのは、父の仕事のせいだ。仕事は上手くいかなかった。借金を増やした父のもとで、オレはまともに学校に通うことも叶わなかった。
父は借金を理由に、厄介な――そして社会的に正しくない――仕事も請け負いはじめた。話を聞いてしまえば決して抜けられない、もし抜けようとしたなら呆気なく命を失うタイプの仕事だ。
その仕事の取引相手は、シンプルに「組織」と呼ばれた。
組織は、オレにもその仕事を手伝うよう強制した。
もちろん、別の選択肢もあっただろう。どこか遠くへ逃げ出すこともできた。父の命より一般的な正義を優先し、すべてを警察にさらけだしてもよかった。
でもオレは結局、組織に加担している。
父は善人だ、と先ほど言った。
あれは嘘だ。
オレたちの仕事とは、トレインマンを創り上げることなのだから。
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