Scene3 23:10〜 1/2

 ファミリーレストランの看板が目に入った。
 その駐車場に車を停め、助手席の段ボールを手に取る。
 例のベレッタは、確かにそこに収まっている。黒々とした銃身が、有無を言わさぬ威圧感を放つ。
 こんなものを向けられれば誰だって怖ろしいだろう。オレだってそうだ。使わずに済めばそれに越したことはない。
 ふと、付録屋の表情を思い出す。彼は一見、平然としていたけれど、あのときどんな心境だったのか。
「大久保」と。
 名札にはそうあった。「町田」と同じく偽名かも知れないが、とはいえ彼も人間であり、ちゃんとした名前があるのだ。母がいて、父がいる。幼少期を経て、今がある。そんな当たり前の個性が、付録屋という名によって薄められている。組織の意図を感じた。
 付録屋の仕事は、必要な道具を、必要な時期に渡すことだ。
 カモフラージュに、コンビニ受け取りを使う。
 トレインマンは道具が必要になれば、各々の偽名で通販サイトを利用する。購入する商品は、特定のコンビニで受け取れる物なら何でもいい。それは重要じゃない。
 届いた商品に必要な道具をつけて渡すのが、付録屋の仕事だ。食玩のように、慈善事業のように、おまけこそが目的となる。
 付録屋に罪の意識はあるのだろうか。拳銃はもちろん暴力的な用途で使われるが、行動に移すのがオレたちトレインマンである以上、彼らには実感としての恐怖が少ないのかもしれない。
 役割を細かく区切るのも、人間の感情を薄める、ひとつの手段なのだろう。
 ――オレはトレインマン。人を殺すのが仕事です。
 頭の中で唱えてみるが、やはり異常だ。こんな役割に慣れてはいけない。できることなら、いつだって善良で、正しくありたいと思うけれど、どうすればそこに戻れるのだろうか。
 大体が、正しさとは何かも、今ではよくわからない。


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