Scene4 23:20〜 1/3
角に車を止めた。真上の街灯が、数秒に一度、チリッと音をたてて消える。
運転席から出て、車体に背中を預ける。コートのポケットに手を突っ込み、彼女が来るまでの間、大人しく待つことにする。
人通りが少ない裏路地で、音はない。視線を地面に落とすと、街灯に照らされた自分の影がぼんやりと見える。
身長はもとよりでかい方だが、アスファルトに張り付いたそいつは、さらに巨大で不気味だった。思わず眉根を寄せる。
普段は被らないキャップ帽が悪いのか、得体のしれない男に纏わりつかれているような、不快感があった。
トレインマン? 馬鹿馬鹿しい。それは、オレだ。想像を振り払うように、足元の小石を蹴る。
石を視線で追うと、ちょうど、先の角から少女が現れた。
――彼女だ。
予定よりも少し早い。彼女は焦ったような足取りで、こちらに向かってくる。
オレは目を細め、息を整え、自分に言い聞かす。
大丈夫、上手くやる。何も怯えることはない。
もう一度だけ、足元の影に視線を落とす。――トレインマン。
お前がオレを支配しているんじゃない。逆だ。オレがお前を演じてやるんだ。わかっているな? トレインマン。
女性が目の前を通り過ぎようとする。意識的に強い声を出す。
「すみません」
同時に、ポケットから右手を抜きだす。
黒い銃口が、振り向いた彼女の胸を捉える。
「――トレインマンを、ご存知ですか?」
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