段ボール製の犬小屋の前に、女の子がしゃがみ込んでいた。
一目でわかった。吉川だ。
彼女はじっと、モップを抱きしめている。
「よう。どうしたんだ? 泣き虫」
なんとなく名前を呼ぶのが照れくさくて、オレはそう声をかける。
吉川がこちらを向いた。悲壮な表情。ドラマで、拳銃を向けられた役者みたいな。
「モップが!」
今までにない、大きな声で、彼女は言った。
「どうしよう。すごく熱くて。モップ、死んじゃう」
モップの前脚が、ぐったりと、彼女の腕からはみ出ている。
ふざけるなよ。
オレのこれからは、ずっと腹いっぱいで、幸せなはずなんだ。
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