Scene16 1/5

 それからはモップのことばかり考えていた。
 まっ白なポメラニアンの飼い主について聞き込みを続けながら、段ボール箱で犬小屋を作った。作る度に不満が目につき、毎日のように作り直した。
 父は以前、原型師をしていたらしい。
 原型師とは玩具の元となる型を作る仕事で、父はアニメのヒーロー関係の玩具を担当していた。でもオレが生まれたすぐ後くらいに、その仕事を失くしてしまった。
 ともかく原型師だった父の子供なのだから、オレには犬小屋くらい簡単に作れると思っていたのだが、制作は意外に難航した。まあ、楽しい作業ではあったけれど。

 より大変だったのは、飼い主に関する聞き込みの方だ。
 最初は犬を連れている人に当たれば、簡単に飼い主がみつかるだろうと思っていた。犬は散歩させるものだし、なぜか飼い主同士は妙に仲がいい印象がある。きっとモップのことだって知っているだろう。そう思っていたが、上手くいかなかった。
 とりあえず近くにポメラニアンを飼っている家庭が3軒、見つかった。だがそのいずれもモップの家ではなかった。
 ポメラニアンを飼っている家はどこも小奇麗で、チャイムにスピーカーがついていて、場合によってはカメラまであった。そして、そこで事情を説明しても、「うちじゃありません」と追い返されるだけだった。

 だからオレは、捜査対象を変えることにした。
 もしもモップが捨てられたなら――というか、まず間違いなく捨てられたのだろう。あいつが自力で首輪から抜け出す技術を持っているなんて、オレも信じちゃいない。
 とにかく犬を捨てるなら、何か飼えなくなった事情があるのだ。思い当たったのは、引っ越しだった。
 オレは近所の不動産屋を回り始めた。
 良いアイデアだと思ったが、結果は散々なものだった。不動産屋は顧客のプライバシー保護に努めていて、まともな話が聞けなかった。
 しかも、よく考えてみれば、もし飼い主が本当に引っ越ししていたとしても利用した不動産屋は引っ越し先のものだろう。この辺りを尋ねて回っても、答えがわかるはずもない。
 だけどそのことに思い当たるまで、オレはずいぶん、時間を無駄にしてしまった。


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