Scene28 12:15〜 5/5

 ――生きてるってことは、それだけで奇跡的に幸福なのさ。
 そう言っていた父は、オレが人殺しと知れば、どう思うだろう?
 だが、あの少女が長く生きれば生きるほど、父に危険が及ぶのだ。
 組織が彼女に気づいた以上、救う道などないじゃないか。
 オレの手で殺らなければ、別のトレインマンが殺し、父の立場が悪くなるだけだ。
 ――腹が減っていなけりゃなおいい。でも減っていてもいい。次の飯がより美味くなる。
 顔を歪める。あの言葉は、大嘘だ。
 こんな精神状態では微塵も空腹など感じないし、これから先、二度と飯を美味く感じられるとも思えない。
 それでも、父は言った。彼自身に言い聞かせるように願った。
 ――生きているだけで幸福だ、と。
 ならばオレのやることは決まっている。
 彼の幸福を叶える。
 唯一の家族が、裏切るわけにはいかないだろう?
 銃を握る手が、初めて震えた。

 少女を殺す。他に選択肢はない。


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