Scene33 1/3

 吉川。
 彼女は、吉川アユミだ。
 間違いなく、絶対に。なぜ今まで気づかなかったのか。
 予兆ならあった――いや、今となってはどうでもいい。
「黒崎くん」
 吉川が。吉川が、オレに呼びかける。
 とにかく、この世界で今、とんでもない奇跡が起こったのだ。
 ――生きてるってことは、それだけで奇跡的に幸福なのさ。
 幸福なんてもんじゃないよ、父さん。
「黒崎くん、だよね」
 そう呼ぶ吉川の声は、あの頃と何も変わっていないように思う。例外中の例外と言いながらよく泣いた、そして、それ以上によく笑った彼女の声だ。
 会いたかったんだ、ずっと。
 彼女に名を呼んでもらうだけで、空腹は満たされ、デザートまで詰め込んだ気分になる。オレは、やっと思い出す。
 正しい自分と、正しい目的を思い出す。

 足元に落とした銃を拾い上げ、来た道を戻る。正しい方へ。


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