吉川が走ってくる。
妙に、納得した。あいつが走り出さないわけがない。
あのときだって、そうだった。吉川は、誰かのために走るんだ。
変わっていない。
そう思うと、たまらなく嬉しくなる。
でも。
何も話さずに別れようと思った。それが彼女のためだろうと思った。
ドアに手をかける。
引きあけようとして、ガラスに映り込む顔に気づいた。
――吉川。
堪えきれず、振り返る。
目の前に、あの懐かしい表情がある。
泣き出しそうな表情で、彼女は拳を振り上げている。
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