Scene33 3/3

 吉川が走ってくる。
 妙に、納得した。あいつが走り出さないわけがない。
 あのときだって、そうだった。吉川は、誰かのために走るんだ。
 変わっていない。
 そう思うと、たまらなく嬉しくなる。
 でも。
 何も話さずに別れようと思った。それが彼女のためだろうと思った。
 ドアに手をかける。
 引きあけようとして、ガラスに映り込む顔に気づいた。

 ――吉川。

 堪えきれず、振り返る。
 目の前に、あの懐かしい表情がある。
 泣き出しそうな表情で、彼女は拳を振り上げている。


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