Scene5 23:30〜 1/3

 裏路地から大通りに出たところで、見失った。付録屋も、彼女も。
 くそ、と内心で毒づく。
 この街は入り組んでいる。カーブと坂道で構成され、真っ直ぐ平坦な道はほとんどない。しかも夜の大通りには、酒臭い大学生やサラリーマンの群れが溢れかえり、捜索は困難に思えた。
 元より、彼女を殺す気はない。脅すだけ脅して逃がすつもりだった。
 だから現状で大きな問題があるわけではない。
 ただ、彼女の首に掛かっていたチェーンが気にかかる。正しくは、その下に何が付いているのかが。それを確かめるためだけに、彼女の居場所が知りたかった。
「ねえ、貴方」
 人混みから、女性の声が飛んでくる。
 視線を向けて、自ずと身体がこわばった。青い制服。警官だ。まずい。
「ちょっと動かないで、そのまま」
「え、なんですか?」
 指示には素直に従いつつ、できるだけ柔和な口調を心掛けた。善良で臆病な青年、「町田」を演じる。ベレッタはコートの内ポケットだ。外から見えるはずもないが、とはいえ触られれば一発でバレる。
「なにか、事件ですか?」
 怯えた声を出してみるが、女性警官はこちらの声など無視して近づいてくる。彼女はその細い腕を伸ばすと、躊躇もなくオレの懐に右手を忍ばせる。
「あ」
 ベレッタが抜き取られた。
 直後、脇の国道を走る車のライトが、彼女をくっきりと照らし出す。
「ええ、これは大事件ね。トレインマン
 その顔には見覚えがあった。
 彼女も、トレインマンだ。


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