Scene1 22:30〜 1/3
どこかで、人生を大きく間違えた。
今のオレをみればわかる。間違えたのだけは間違いない。
もし愚痴っぽく聞こえたなら許してほしい。それは本意ではない。
確かにオレは現状にも、これまでの何もかもにも不満だが、少なくとも絶望はしていない。
「生きてるってことは、それだけで奇跡的に幸福なのさ」
と、父はよく言っていた。
誰かに言い訳をするときのような、自信のない笑顔だった。彼はそういう曖昧な表情を、よく浮かべた。
「腹が減っていなけりゃなおいい。でも減っていてもいい。次の飯がより美味くなる」
彼は今、腹を減らしているだろうか?
きっとそんなことはないだろう。
組織にとって、父は重要な価値を持つ。
組織における父は、消耗品だ。
構成員どころか飼い犬にも及ばない――ボールペン、コピー用紙、ダブルクリップ、それから父。
なのに父は、重要な価値を持っている。
ただの消耗品だとしても、ボールペンとは違い、彼は世界に、ひとりだけしかいない。極めてレアリティの高い消耗品だ。
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