Scene12 1/2

 モップについて語ろう。
 彼は白いポメラニアンだ。でもその毛並みは茶色く汚れていた。世の中の汚いところをみんな拭き取っていくように、腹の長い毛を地面にこすりつけて歩く犬だった。

 モップに出会ったのは、まだオレが10歳の頃だ。
 10歳。それはオレの人生において、最も幸福だった時代だ。
 どんな人生だって一定の期間を切り取れば、きっと幸せに満ちてみえるのだろう。純白で、光に満ちた時間が、誰にだってあるはずだ。オレにとってはその時間が、モップを見つけてからの半年ほどだ。
 もちろんその時代のオレだって、問題を抱えていたし、悩みもあった。でもそれについてはまた後で触れることにしよう。

 午後4時を少し回った頃だったように思う。
 できる限り家を空けるようにしていたオレは、だが友人と呼べるような同級生もなく、ひとりで公園を歩いていた。
 小学校に向かう途中にある公園だ。ここを突っ切れば、学校への近道になる。
 ふと顔を上げると、ベンチに犬がいた。白い長毛の小型犬。ポメラニアンだ。そのポメラニアンはベンチの上で「おすわり」の姿勢を取り、ずっと公園の片隅の一点を見つめていた。
 口元がほころぶ。その犬の姿が妙に凛々しく思えたのだ。凛々しいポメラニアンを嫌う理由は、オレにはない。
 そいつの隣に腰を下ろした。


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