Scene15
モップが足元にじゃれてくる。
手の甲で涙を拭いている吉川の隣で、オレは言った。
「やっぱりさ、こいつの飼い主を探した方がいいと思うんだ」
家族というのは幸福の象徴だ。
モップだって、戻れるなら本当の家族の元に戻った方が良いに決まっている。例え、一度嫌われたとしても。一緒にいれば、また仲良くなれる日が必ず来る。
でも吉川は不満げだった。
「ねえ、ここで飼おうよ」
と彼女は言った。
「段ボールか何か持ってきて。古いタオルをひいて。ご飯くらいならなんとかなるよ」
オレは首を振る。
「だめだよ。今はいいけどさ。寒くなったら、風邪をひいちゃうだろ」
こいつは、家族のところに戻るべきなんだ。
「でも――」
「それに、保健所に見つかったら、殺される。殺処分。あいつらは邪魔な犬を殺すんだ。それが仕事だ」
仕事がとても大切なものであることは、理解していた。母は仕事のことばかり考えている。父も仕事で、いなくなった。
言い過ぎた、と気づいたのは喋り終えたあとだ。吉川が表情を固めている。
オレは無理に笑ってみせた。
「よかった」
「え?」
「また、泣くかと思った。吉川、泣き虫だから」
「そんなことないよ。さっきのは、例外」
「嘘だろ」
「ホントだよ。例外中の例外」
実は知っていた。
クラスで見る限り、吉川は簡単に泣くような女の子じゃない。
どちらかというと、もの静かで、だが芯の強い少女に見えた。
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