Scene31 12:55〜
ベレットを走らせる。広さの割に交通量の少ない道だ。
昨日から何度か、子供の頃を思い出していた。
最近は考えないようにしていたのに、記憶とは些細なきっかけで湧き出すものらしい。
過去を見るのは嫌いだった。意識せずとも、彼女の存在が脳裏をちらつく。
吉川アユミ。
人を殺してしまえば、もう彼女には会えなくなる。
いや。
そもそも、トレインマンになった時から会うつもりなんてなかった。そう決めていたはずだ。
オレは今さら何を考えているのか。
吉川、と渇いた唇を動かしてみる。
とても温かな響きに思えた。
オレは、こんな風になっても、まだあいつに会いたいと思っているのか。会ってどうするのか。何も話すことなどない。話せるような人生を送っていない。あいつにだけは失望されたくなかった。
気づけば、両手がハンドルを切っている。無意識に、勝手に。車に身体を動かされている錯覚にすら陥る。
しかし不安感はない。記憶の奥深くで、知っている方向だ。
街並みは大きく変わっているけれど、それでも、この道がどこへ行くためのものなのか、間違えるわけがない。
オレと、吉川と、モップの場所。右足がひとりでに力を増す。
あの公園へ。ベレットはオレを連れていこうとしているのだ。苦しげな咳払いに合わせて、がたがたと、ダッシュボードの銃が踊る。
オレはただ、ベレットに言われるがまま、車を走らせる。
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