Scene32 13:00〜 2/2-A

 黒い拳銃。
 最初、コンビニで少女が呟いたとおり、ベレッタというのがその銃の名前だ。
 少女を見つけると同時に、オレは迷わずベレッタを引き抜いていた。
 気配に勘づいたのか、少女が顔をこちらに向ける。
 その表情が、固まる。
 まるで紐の絡まった操り人形のように、無理やりに後ろを振り返り、やってきた道を駆け戻ろうとする。
 しかし、足をもつれさせ、倒れる。
 ――怖いのか?
 そりゃそうだ。オレはトレインマンだ。拳銃だって持っている。
 少女は手をついて起き上がろうとするが、その動作すら、ままならない。
 ――恐ろしいのか? このオレが、そんなにも。
 近づき、見下ろすと、少女の背中にオレの影が圧しかかっていた。キャップ帽をかぶった長身の男。トレインマン。確かに、化物じみている。
 彼女は既に抵抗をやめていた。絶望で身体が動かないのか。
 それなら、それでいい。
 オレだって、逃げ惑う少女に何発も、冷たい銃弾を撃ちこみたくはない。
 銃口を、その小さな頭に向ける。
 その時だった。
 
 なにかが、輝いた。

 前方だ。少女が顔を上げて見つめる、その先。
 ひょろりとした木の、下から2本目の太い枝――幹から15センチほどで切られた、ただ突起のような枝に、輝くものが引っかかっている。
 ――あれは。
 ペンダントだった。2つで1つ、ハートの形のペンダント。
 吉川と約束を交わし、交換したペンダントだ。
 なぜ、ここに? 目を見開く。
 固まったままの少女に視線を戻す。首元を見る。チェーンはない――以前は、そんな単純な理由で安心したけれど、でも。
 何年も前に渡したペンダントを、首にかけているとは限らないだろう、当然だ。失くしたのかもしれない。オレだって、東京で仕事をしているうちに失くしたのだ。必死に探したけれど、どうしても見つからなかった。吉川だって、同じかもしれない。
 吉川、なのか?
 そう思って少女を、それからあの木を、もう一度、見つめた。
 既にペンダントは消えていた。

 後に残ったのは、ただ短く切られた、無残な枝だけだ。
 幻覚。
 まただ。
 結局、オレの思い込みだったのだろう。過去への執着が見せる、ただの夢だ。
 もう、うんざりだった。
 ここにはペンダントなんてないし、腹を空かせたモップもいない。オレは吉川にとっての黒崎には戻れず、そして、この少女は吉川ではない。
 引き金の指に力を込める。
「すまない」
 きっと目の前の少女ではなく、大切な彼女に、オレは謝った。
 

 Bad end - no.4「心ない結末」


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