Scene16 3/5

「悪い。父ちゃん、稼いでお前に美味いもん食わしてやろうと思ってたんだけどよ。なかなか上手くいかなくってさ」
 どうだっていい。
「母ちゃんは帰り、遅いんだろ? 晩飯でも食おう。この先にさ、美味い寿司屋があったんだけど。まだやってるかな。いつも客、少なくてさ」
 どうだっていいんだ。
「ずっとさ、小遣いもやれなくて、悪かったな。なんでも欲しいもん言ってみな」
 そんなこと、どうだっていいんだ。
「父さんが帰ってきてくれただけで、充分だよ」
 これで、ずっと欲しかったものが手に入るのだと思った。
 父はこうしてオレに話しかけてくれる。母だって、父が戻ってくれば、再婚を考える必要もない。そうなればオレは、邪魔者ではなくなるかもしれない。
 夢みたいだった。
「そうは言ってもよ」
 父は頭を掻いた。
「子供に玩具を買ってやるってのは、親の自己満足みたいなもんでさ。けじめっていうか、もちろんそれで許してもらおうってことでもないんだけど」
 よくわからないことを――本当はだいたい伝わったが、きっとオレが理解する必要なんてないことを――ぶつぶつと呟いてから、父は言った。
「とにかくさ、オレを助けると思って、欲しいものを言ってみな。なんでもいいからさ」


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